新会社の設立 リーダーシップの5大要素

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Ernie Brittingham
4月 20, 2021
10 min read
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エグゼクティブサマリー
ラッセル・レイノルズ・アソシエイツが明らかにした取締役会、リーダーシップの特性、過小評価されている部門、企業カルチャー、タイムラインというリーダーシップの5大テーマに関する教訓から、ビジネスリーダーはインサイトを得て、スピンオフまたはカーブアウトによって企業を設立する際の複雑さを最善の形で乗り切ることができるでしょう。
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新型コロナウイルスのパンデミックに端を発する景気の先行き不透明感はくすぶり続けていますが、官民のディール案件数は急増しています。多国籍企業は競争力を維持するため合併・買収(M&A)に舵を切り、高成長分野のイノベーションを取り込むと同時に、ノンコアアセットの売却を進めています1。また、公開市場での資本調達が容易になったことから、特別買収目的会社(SPAC)案件も大きく伸びており、買収対象企業をめぐる競争が繰り広げられています2。それに加え、今年のプライベートエクイティ業界 の手元資金は1 兆米ドル超と過去最高を更新する勢いで、これまで控えられていたディールメイキングに対する反動需要が大きく高まっています。

パンデミックと、ディールメイキングに対する旺盛な需要が相まって、多くの組織が投資戦略の見直しを迫られています。これらのディールは企業のスピンオフと官民のカーブアウトが大半を占めています。このような組織の構成は元来複雑であり、常に人材、インフラ、ガバナンス体制の解体と再構築が、同時に求められます。

ラッセル・レイノルズ・アソシエイツは過去10 年にわたり、スピンオフやカーブアウトのプロセスのさまざまな段階において数多の組織や投資会社にアドバイスを提供してきました。それにより、ディールの成功に必要なリーダーシップの要素や、問題を放置した場合に起こり得る問題についての膨大なインサイトを蓄積しています。

当社が経験に基づいて得た、新会社を設立する経営層がトランザクションにおいて検討すべきリーダーシップの5 大テーマは以下のとおりです。

01. 取締役会
02. 最高経営責任者(CEO)のリーダーシップの特性
03. 過小評価されている部門
04. 企業カルチャー
05. タイムライン

01. 取締役会

どの新会社も独自の取締役会を必要としますが、これは「取締役会の構造」という重要な問題につながります。投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG)の価値と、取締役会の多様性拡大へのニーズを強く訴えるのに伴い、この問題が非常に重視されるようになってきたと当社は実感しています。しかし、スピンオフやカーブアウトの多種多様なシナリオを前提とすると、新会社の取締役会の理想的な構成を1 つの公式に当てはめることはできません。よく見られるのは、親会社または投資家が任命する取締役と新規採用 の独立取締役で構成されるケースです。多くのCEO は、新会社へ移籍または親会社と新会社の両取締役会に在籍する取締役を、親会社から少なくとも1 名は受け入れています。

効果的な取締役会を構築するには、新会社の戦略を中心に据えて早期に合意を形成し、取締役会が対応すべき能力または経験の潜在的なギャップを特定することが重要です(図1)。

図1:新会社で効果的な取締役会を構築する方法

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当社の経験に照らすと、次の段階では現在または最近の執行役員(CEO、CFO)の中から、取締役会で貢献できるリーダーを採用することに注力します。実際には、専門家よりも現役または以前の執行役員を優先すべきで、スピンオフまたはカーブアウトの経験者が非常に望ましいと言えます。ガバナンススキルと業界経験も望ましいですが、新会社の取締役会の、高い執行力が求められる日常業務を考慮すればそれほど重要ではありません。取締役は新会社の中核的なミッションに貢献することも不可欠で、エンドマーケットや業界での経験に加え、M&A、報酬体系業務、強固な人材ネットワーク構築に携わった経験、抜本的なビジネストランスフォーメーションの実績があるかどうかも重要です。

図2:新会社で優れたパフォーマンスを発揮する取締役会を構築するうえで重要な検討事項と確認事項

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02. CEO のリーダーシップの特性

初めてCEO の職に就いた場合は、慣れるまでに12 ~ 18 カ月要するのが一般的です。通常、この時期は新会社を完全に立ち上げて稼働させる時期と重なり、しかもそれまでの状態を大幅に上回るパフォーマンスも期待されます。典型的な学習曲線を描くほどの実践経験を積む時間がないことから、スピンオフもしくはカーブアウトの経験者、またはCEO 経験者の最高経営幹部を任命することが、ステークホルダーの優先順位リストの上位に挙げられていても不思議はありません。

とはいえ、特定の経験を持つリーダーを採用することが常に現実的または可能というわけではありません。ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ(RRA)は最近の研究から、新会社で成功を収めるCEO によく見られる際立った特徴を特定しました。

  • 新会社には不確実性が伴うことから、新会社のCEO にはレジリエンス、組織のために献身的に取り組む姿勢、高いリスク許容度が求められる。予想外のことが常に発生する。
  • 新会社のリーダーは業務で継続的な問題解決を迫られるため、鋭い戦略的洞察力が必要。
  • 勤勉さと実務能力。新規事業立上げ直後の採算の取れない時期は特に、プロジェクトマネージャーとして、最もありふれた業務でも進んで引き受ける。
  • 業務の性質上、実務に深く関与することになるため、新会社のCEO は結果に対して個人的に責任を負うことが求められる。
  • 現場は想定どおりには進まないと予想されるため、柔軟性を持ち、失敗にくじけない
  • 最後に、強い緊迫感を持っていれば、どのような試練があろうと業務を遂行することができる。

03. 過小評価されている部門

新会社の人材採用で最も重要なことは何でしょうか?強力で多様性のある取締役会の構築とCEO の採用は重要ですが、それ以外にも新会社を設立するうえで、まず決定すべき最高経営幹部職がいくつかあります。ときには、この最も重要な人材の採用が最も過小評価されている場合もあります。スピンオフやカーブアウトを主導したリーダーたちは、後から振り返ってみると、人事、財務、情報技術(IT)部門をもっと重視できたはずだと述べています。

人事部門: 新会社の成功の大半は組織の人材の質と意欲に依るものです。新会社は一般的に最初の12 カ月で既存のリーダーシップチームと中間管理職の40 ~ 80% の人材を失うことになるため、最高人事責任者(CHRO)が戦略的パートナーとして初日からCEO と連携できれば理想的です。新たな人材の採用と、人材確保のための強力なツールの導入に加え、優秀なCHRO も新たな組織カルチャーを構築するCEO の支えとなります。当社の経験によれば、ほぼすべてのCEO がCHRO を早期に採用しなかっ たこと、または十分な成熟度を備えたリーダーを採用しなかったことを後悔しています。

財務部門:税務、財務、会計を含む財務部門の構築が求められるため、先見の明のある、実行力のあるCFO が不可欠です。さらに、新会社では新体制が完全に整わないうちから詳細な報告書の提出を始める必要があるにもかかわらず、一部の財務データがまだ親会社に残っていることもあります。プライベートエクイティ(PE)が手掛けたカーブアウト案件では、新会社が自己資本比率の低い企業である場合、CFO は巨額の負債管理においてさらに重要な役割を担うことになります。CFO は初日から非常に重大な任務に就くため、プライベートエクイティの支援や、過去に新会社、事業再生、危機のいずれかに携わった経験があれば理想的です。

情報技術部門:IT システムはあらゆる事業部門を支援し、組織全体を連結し、説明責任を向上させるうえで必要不可欠なため、新会社においてIT 部門は特に重要です。したがって、システムに関する重要な選択ができるよう新たなIT リーダーをできるだけ早期に配置すべきです。親会社からIT システムを分離するには複雑さが伴いますし、IT コンサルティングや外部委託サービスへの外部委託は高額となる可能性があります。IT リーダーはこのような外部委託出費を抑えることに特に長けている必要があります。

その他の検討事項:スピンオフやカーブアウトの経験のあるCEO の多くは、再び同じ経験をするようなことになれば、IR( 投資家向け広報) 活動とコーポレート・コミュニ ケーションにいっそうの注意を傾けるだろうと述べています。こうしたCEO は、社内外のステークホルダーにアプローチをしながら自社の状況や漸進的な変化を説明することに長けた専門家を確保する重要性を、当時は過小評価していたのです。また、CEOに直属し、移行期間の実務のあらゆる側面を支える有能なプロジェクトマネージャーを任命するだろうとも話しています。レガシービジネスから引き抜くにしろ、外部から引き抜くにしろ、成功するプロジェクトマネージャーは、コミュニケーション能力に優れ、実務に深く関与する形で計画を立案・実行できるとういう理想的な特徴を兼ね備えています。

04. 企業カルチャー

スピンオフまたはカーブアウトの移行期間は、不確実性が高く作業量が膨大になることが避けられないため、あらゆるCEO やCHRO にとっての最優先事項は新会社の従業員に信頼を植えつけることです。新会社のCEO は、今起きている変化に対する姿勢も新会社に対するエンゲージメントレベルも多種多様な従業員グループを引き継ぐことになります。新会社のペースやビジネスドライバーは、当然のことながら親会社とは大きく異なっている場合も少なくありません。従業員に対し、簡潔で説得力のあるビジョンを初日に設定・伝達することは、従業員エンゲージメントを向上させ、業績トップの人材を維持し、新たなリーダーを組織へ惹きつけるうえで非常に重要です。

新会社への移行がもたらすディスラプションも、組織が前向きなカルチャーの構築に専念するまたとない機会となります。この話題で中心となるべきものがダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンです。新会社のリーダーの大半が、新たに設立した会社でカルチャーを作ることの方が、他のCEO の職務やM&A 環境よりも容易だと感じています。それはなぜなのでしょうか。多くのケースで当てはまる理由は、従業員が新たな方向性や支援を積極的に模索しているということです。加えて、新会社は親会社とは違った道を設定することを意図して設立されるため、レガシー組織とは違ってカルチャーを構築しやすいものです。カルチャー構築の中心はコミュニケーションです。リーダーが成功を収めるには、従業員に信頼を植えつけるだけでなく、常にメッセージを簡潔にし、そのメッセージを早期かつ頻繁に強調する必要があります。

図3:カルチャーが鍵を握る

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05. タイムライン

新会社の立ち上げには多くの不確定要素がつきものです。リーダーは新会社の立ち上げと将来価値の創出に注力するうえで適切なバランスを見極める必要があります。下図のタイムライン(図4)は、新会社の立ち上げ前から成長過程に至るまでの重要な決定とマイルストーンのタイミングを解説したものです。

  • 立ち上げ前:理想的には、新会社立ち上げに先立つ数カ月前に、中核的な役割を担うリーダーを任命します。このリーダーにはCEO、CHRO、CFO と、新会社の立ち上げ支援に必要な最少人数の取締役会メンバーが含まれます。中核的な役割を担うチームの人数を絞っておけば、新会社の発展を支える人材を柔軟に追加することができます。また、新会社のリーダーはスピンオフまたはカーブアウトで移籍してくる親会社の重要な人材を特定・評価し、維持に向けて注力する必要があります。
  • 設立段階:重要部門を整備して新会社を立ち上げたら、ビジョンを伝え、維持や昇進させたいレガシー社員を特定し、社内のリーダーシップチームを作り上げます。
  • 強化段階:新会社の独立への動きに伴い、社内の重要な人材を確保する体制を整備する必要があります。前述以外の離職を希望するレガシー社員が自発的に離職を始めることが予想されるためです。また、新会社が新たな成長目標と利益目標に向かって舵を切るには、既存顧客をさらに重視し新規顧客との関係構築も重要です。
  • 成長段階:新会社が成長し安定するにつれ、重点は事業構築から中核的ビジョンの維持へと移ります。この時点で、リーダーは人材戦略を練り直し、基準を策定し、新たな取締役会メンバーを配置します。そして、新会社が将来について考え出すようになると、後継者育成プロセスを始動させます。

図4:オペレーションと人材戦略の段階的プロセスを解説するタイムライン

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スピンオフとカーブアウトの成功

新会社は立ち上げ時や、その後の成長過程で多くの試練に直面します。新会社の設立には元来細心の注意が求められ、リーダーは期限に追われながら、公開市場または積極的に関与する投資家の監視下で、組織全体の非常に複雑なインフラを分断・再構築しなければなりません。ラッセル・レイノルズ・アソシエイツが明らかにした取締役会、リーダーシップの特性、過小評価されている部門、企業カルチャー、タイムラインというリーダーシップの5大テーマに関する教訓から、ビジネスリーダーはインサイトを得て、スピンオフまたはカーブアウトによって企業を設立する際の複雑さを最善の形で乗り切ることができるでしょう。


執筆者

Ernie Brittingham: 当社のヘルスケアセクターのメンバーで、グローバル・メディカル・デバイス&ダイアグノスティックス・プラクティスのリーダー。プライベートエクイティと、締役会およびCEOアドバイザリー・パートナーズ・グループのメンバーも兼務。ニューヨーク拠点。

Sarah Flören: 当社のヘルスケアセクターのメンバーで、グローバル・メディカル・デバイス&ダイアグノスティックス・プラクティスの戦略的インサイトを創出するリーダー。ニューヨーク拠点。

 

参照

1. Copp, Josh, et al. “Divestiture in Medtech: Are You the Natural Owner of Your Businesses?” McKinsey & Company
2. Cox, Dylan, and Wylie Fernyhough. “Q4 2020 PitchBook Analyst Note: 2021 US Private Equity Outlook: PitchBook
3. Herschman, Gary, et al. “Robust Health-Care M&A Volume Ends 2020, Will Continue in 2021 | Mergers, Acquisitions & Divestitures.” Epstein Becker & Green
4. CB Insights. “Healthcare Unicorn Exit Activity Reached Record Levels In 2020.” CB Insights Research
5. “Healthcare and Life Sciences Deal Activity Will Be Robust in 2021: KPMG Survey.” KPMG