Board Directors and Chief Executive Officers

CEO後継者育成計画とは何か - 基本概念と実効性のある策定・運用に向けて

 



​後継CEO選任に求められる客観性

2018年3月末、カルビーの改革に辣腕を振るった松本晃・会長兼最高経営責任者(CEO)の退任が公表され、カルビー株が30分間 に8%近く下落する出来事があった。名だたる経営者の交替に株式市場が敏感に反応するという、日本では過去、あまり見られな かった現象であった。

いったいいつ、どのような人物に経営トップが代わるのか──。

日本の企業風土では、長らく〝奥の院〟で決定されてきた後継者人事だが、いよいよ欧米諸国同様、選定プロセスの段階から、その 適正さが企業戦略や株価をも左右する要素として注目される時代になりつつある。

金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを策定して3年余り。2018年6月の改訂版においては、「CEO後継者の 育成計画」を、日本企業でも取締役会、経営陣が取り組むべき重要課題とする新たな項目が加わった。

《取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続 きに従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである》(補充原則4-3②)

こうした流れを受け、時価総額上位30社には、すでに何らかの後継者育成プログラムが浸透し、金融機関でもその動きは進んでい る。とりわけ国外での売り上げが大きく、外国人の幹部登用を検討するような企業の取り組みは真剣だ。

とは言っても、大多数の企業はまだ、手探りの状態にある。経産省が実施した2017年12月期の調査によれば、社長やCEOの後継 者を決めてゆく具体的な計画を未だに持っていない企業が全体の48%にのぼり、社内に計画が存在するか否かさえ判然としない 企業と合わせると、約8割を占めている(注1)。

日本の企業文化では従来、次期トップの指名は前任経営者の専権事項とされ、第三者がその人選を論じ合うなどという行為は、⿎ もってのほかと考えられていた。一部経営者には、後継者の指名権を独占することで、自らの社内統率力の源とする考えもなかっ たとは言えない。

それでも、コーポレートガバナンス・コードが形式的ではあれ、浸透したこの3年間、グローバルの機関投資家や外国人株主が企業 のガバナンスを重視することが、国内でも幅広く認識されるようになった。CEOの後継者育成に関しても、グローバルスタンダード の潮流は、もはや無視できない状況になっている。

国内の場合、CEOを外部から起用するケースはまだ少なく、92%のCEOが社内から登用されている(注2)。カルビーで活躍した松 本氏のような外部登用の「プロフェッショナル経営者」は、まだ少数例に留まっている。

つまり日本国内では、諸外国以上に社内からいかに優秀な人材を見いだし、育て上げるかが重要な課題となるわけだが、問題 はそのプロセスである。新たなコードでは、説得力のある客観的な選考過程のもとで、後継トップを選び育成することが求められ ている。

CEO後継者育成計画の基本概念

ここからは、CEO後継者育成計画を策定するにあたっての具体的手順を説明してゆきたい。最初に提示する4点は、基本概念の 骨子として改訂版のコーポレートガバナンス・コードにも明示されたポイントだ。

戦略志向: 
後継CEOに求められる能力は、企業が想定する将来戦略によって異なったものになる。当該企業は将来、どこを目指すのか。社内 で共有されるその戦略に沿って、最適な資質を持つCEOを選ぶことになる。 

公正性・客観的性・具体性: 
候補者になり得る人物を公正に客観的に選ぶだけでなく、一定期間を経て各候補者がトップにふさわしい資質を得るように育成 するプログラムを策定する。92%の企業が内部登用で後継者を決める日本においては、諸外国以上にこのプロセスが重要にな る。候補者各人の資質を科学的に分析、アセスメントすることはもちろん、中長期的にそれぞれの課題に応じた育成計画を設定 し、建設的なフィードバック、タフアサイメント、再度のアセスメント、といったサイクルを実施するのである。進捗状況の管理は、現 職のCEOや指名委員会、取締役会が適宜共有する。

ベンチマーク
これは社内登用が多い日本企業では、なじみの薄い作業だが、後継者選びがその企業独特の価値観に偏った〝一人よがりの判 断〟になってしまったり、〝手持ちの人材〟の範囲内で妥協してしまったりという傾向はまま見られる。候補者に挙がっている人物 が、その市場、業界においてベストな人材と言えるのか。そのリーダーシップのもと、会社は本当にグローバル市場で戦ってゆける のか。

そういった俯瞰した視点から候補者を一旦見つめ直し、改めて厳正な評価を下すことが大切である。社内には適任者がいないと 判断し、外部採用に踏み切る企業が近年、少数ながら出てきたのは、そういった検討プロセスに基づく結論なのである。

第三者の視点
選任・育成プロセスには、社外取締役や指名委員会を関与させ、透明性、客観性を担保する。コーポレートガバナンス原則4-10 においても、ステークホルダーを代表とする独立社外取締役などを活用し、経営幹部の意向から独立した客観的意見も聞いたうえ で、外部への説明責任を強化するよう求めている。

CEO後継者育成計画の作業

これら4つの骨子を踏まえ、具体的な後継者育成計画を作ってゆくわけだが、その作業に着手するにあたっては、さらに4点からな るポイント、「3W1H」を考えてほしい。時間軸の決定=When、CEO要件定義=What、後継者育成計画のプロセス=How、そして 役割分担=Whoである。

 

1) スケジュール・時間軸

とくに最優先で決めなければならないのは、時間軸である。あなたの会社ではいつ、次期社長の指名を想定しているのか。

日本企業には、CEOの任期を内規で定めていない社も少なくない。ただその場合も、取りあえず日本の平均的な社長任期6年を念 頭に置けば、次回の社長交代まで残された時間がおおよそ把握できる。通常は、実際の社長交代まで3~5年の余裕を持ち、後継 者の育成は始めなければならない、と考えられている。

後継者の選任・育成について、国内ではオムロンが先駆的なシステム導入で知られている。同社では世界中に30人ほどの候補者 を選び、意図的にハードルの高い仕事を与えながら評価を繰り返し、候補者リストは毎年入れ替える。最終的な後継者を決めるま で、実に10年もの歳月をこのプロセスに充てるという。

そこまで徹底した企業があることを思えば、新社長が自らの就任と同時に、次期社長の選任・育成を考え始めても、決して早すぎは しないのだ。仮に2021年を指名交代の年とするならば、育成計画は18年にスタートし、最終候補者の絞込みは20年に行う。そう いった具合に、大枠のタイムスケジュールを決めることが、プロセスの第一歩となる。

 

次の段階では、具体的作業を当てはめたスケジュール表を作る。後継者育成計画の戦略と方向性を定め、指名委員会の役割を決 め、担当者を置くことは、初期に必要な作業だ。次いで、将来の企業戦略を実現するための「CEO要件定義」を策定する。後継者に 求める資質を決めることを意味するが、具体的な内容は企業を取り巻く環境の変化にも左右されるため、必要に応じ適宜見直して ゆく必要もある。

要件定義が決まったら、これに基づいて、候補者のアセスメント、選定、育成計画を作る。弊社は対象者のアセスメントに関しては、 行動心理学や2~3時間の個別面談、対象者の360度評価などの方法で科学的、客観的なアセスメントを行うよう提案している。

日本的な旧来の考えでは、このようなアプローチより、〝前任者の眼力〟などを重視する向きもあるが、対象者の属人性をあえて除 外したアセスメントによって、初めて見えてくることもある。グローバルな競争社会の中、対外的な説得力という点でも、不透明なプ ロセスは往々にして不信感につながってしまう。

中長期的には、リストアップした候補者一人ひとり、それぞれの課題に合わせ、配置転換なども組み込んだ育成計画を実施し て、CEO交代の1~2年前を目途として2~3名の候補者に絞りたい。プロセスの途中経過の情報は、CEOや指名委員会、取締役会 の間で適宜共有されるようにする。

そして最終盤、候補者を最後に絞り込む直前には、外部ベンチマーキングを行う。グローバル市場で競合するライバル社の経営者 と比べ、当該対象者は優れた人材と言えるのか。本当にそのリーダーで競争に勝てるのか。そういった社外の環境にも視野を広げ た検討を経て、最終的な決定をするのである。

2) CEO要件定義

この作業こそ、後継者育成計画の肝となる部分である。将来のCEOはどのような要件を満たす人物であるべきか。望まれる⿎ リーダーの資質は、その企業が目指す将来像によって性質が変わってくる。言い換えれば、企業戦略とリーダー像の一致不一 致は、当該企業の将来を左右しかねない本質的なテーマなのである。

しかし、そのイメージを具体的に表現することは簡単ではない。

前述した経産省の調査でも、後継者に求められる資質、能力を文章化する難しさに、試行錯誤が続いている状況が炙り出され ている。

日本の企業には、外資系企業のように職位ごとの「ジョブスペック(要件定義)」が存在していない。また一般的に日本文化に は、人物の能力を箇条書き的にまとめてしまうことに抵抗感があることも事実である。「CEOの要件定義」を決めようにも、漠 然とした観念論になってしまったり、理想ばかり先行して現実から遊離した記述になってしまったりしがちなのは、そのため である。

ここで想起すべきことは、「将来の企業戦略に即したCEO要件」を作らなければならない、ということだ。私たちは、具体的なそ のフレームワークとして、①候補者のこれまでの経験値、②リーダーシップコンピテンシー、③価値観、という3つの側面から適 性を見るべきだと考える。

 

大切なことは、「対象者の過去の実績」より、「CEOになった場合の潜在能力」を測ることだ。その企業の「将来の戦略」を担う⿎ リーダーになり得るか否か。そこがポイントとなる。

一般論として、日本の企業経営者には、「執行の長」としては優秀だが、経営者としての能力に欠ける、という世評がある。「執 行の経験値」という過去形の人物評に引きずられがちな企業文化にも、こうしたトップが生まれやすい土壌がある。

「人間性」「志」「倫理観」といった抽象概念を要件に列挙する企業も多い。これらももちろん人として重要だが、あまりに主観 に左右されてしまうこうした要素だけで、説得力のある人選はなし得ない。将来のリーダーとしての能力値を、「リーダーシッ プコンピテンシー」によって精緻に測ってゆく作業も不可欠なのである。

もうひとつ強調したいのは、CEO後継者育成計画はトップ交替のためだけに考えるものではない、ということだ。次期CEOに 求められる資質は、企業全体の人材育成計画とも強く連動しなければならない。企業が目指す未来像を実現するために、ふ さわしい後継CEOを選び、それを支えてゆく経営幹部らも、同じ観点から選び、育成されるべきなのだ。CEO後継者育成計画 に熱心に取り組んでいる企業が、次世代の経営幹部の育成にも意欲的なのは、当然の流れなのである。

3) CEO後継者育成計画の手法、プロセス

誰が責任を持ち、どのように後継者育成計画を策定・運営してゆくのか。社内の人事部を中心に作業を進めるのか。社外取締 役に指名委員会を通じて支援してもらうのか。客観性を保証するために、社外の専門家のサポートも受けるのか。そういった 作業の具体的進め方についても、早い段階で方針を決める必要がある。

4) 役割分担

後継者育成計画を効果的に運営するためには、役割分担を明確にし、それぞれが緊密に協力する関係が必要となる。通常は 現職のCEOと役員担当人事(場合によっては秘書室、経営企画部門)、社外取締役から構成される指名委員会、そして弊社の ような社外専門家が参画する形が一般的だが、それぞれの役割分担の明確化と緊密な協力関係の構築が、スムーズな計画 の運営には求められる。

会社法上の「指名委員会等設置会社」の場合は、取締役会が最終責任を持つことになるが、その他の形式の企業では、任意 の指名委員会が全体のプロセスの進捗に監督やモニタリングを行う。現任のCEOは、指名委員会に対し6カ月から1年ごとに プロセスの報告をする責任を負い、プロセス全体へのオーナシップを持つことが望ましい。

また、候補者の育成配置計画、アセスメントの実施、指名委員会への報告資料準備等、役員担当人事は運営の全体の調整、統 括を行う。外部の専門家を使う場合は、CEO、役員担当人事と緊密にコミュニケーションをとりながら客観的、科学的なアセス メントや、その後の育成計画等の支援を担う。

指名委員会の役割

CEO後継者育成計画を制度的に支援する機関が、任意もしくは法定の指名委員会である。

取りあえず形式上、任意の指名委員会を作ってはみたものの、実際には機能していない。何を討議すればよくわからない。そういっ た企業も現実には少なくない。

2016年にイトーヨーカ堂のカリスマ経営者が退任した際には、一部に「指名委員会の暴走」という批判的報道もあり、同様の事態 を心配して後継者育成計画を実施せずにいた企業もあったという。しかし、冨山和彦・経営競争基盤最高責任者が指摘したように⿎ (注3)、当ケースは会長の人事案と異なる意思決定をした、という点で、指名委員会がむしろ、その役割をしっかりと果たした、と見 るべきであろう。カリスマ経営者が退任したことと、指名委員会による判断の是非は、切り離して考えなければならない、と冨山氏 は語っている。

任意の指名委員会を設置するにあたっては、改めてその役割とアジェンダを確認する必要がある。指名委員会が担うべき役割 は、CEO後継者育成計画と、次期取締役を選任するプロセスの監督と支援にある。 

委員会は通常3~5名、奇数名で構成する。委員の過半数は社外取締役から選任されることが望ましい。また独立性を担保するた めに、委員長には社外取締役が就任することが理想的である。

委員会で討議すべきアジェンダ(指名委員会の目的、CEO要件定義、後継者育成計画等)を決定し、以後も年4~6回程度、会合を 開くようにする。社外取締役委員が過半数を占めるため、社内人事にまつわる情報を適切に(外部の人が見てもわかりやすい)開 示するための入念な準備も必要だ。

そしてこの指名委員会が適切に機能するためには、CEOの強い意思が不可欠となる。その強力なリーダーシップのもと、委員会の 活動を継続的に支援、コミットメントが、活動を形骸化させない秘訣である。また、指名委員会の任務には、社外取締役の後継者計 画を討議すべきこと、CEOのエマージェンシープランを討議、策定しておく作業があることも、忘れてはならない。

まとめ

グローバルの大手機関投資家による後継者育成計画への注目度や要請は、年々強まってゆく傾向にあり、ガバナンスの要諦でも ある透明性や客観性、公正さは、その企業や経営陣全体への信頼度を左右する大きな要素になっている。

ただ残念なことに、いくらCEO後継者育成計画を丹念に実施しても、失敗のリスクは常につきまとう。精緻な計画によって選ばれた 次期社長が業績不振を招いてしまったり、体調不良などで途中退任したりする〝想定外のリスク〟をゼロにする魔法のノウハウはな い。それでも後継者育成計画を厳正に行えば、そのような失敗のリスクを最小化したり、失敗後の迅速な対応策を用意したりする ことは可能だ。真摯な取り組みをするか否かで、当該企業に寄せられるステークホルダーや社員の信頼は、間違いなく変わってく るのである。 

公的な器である企業の継続的成長を実現するために、限りなくベストに近いリーダー育成に手を尽くす。ここにこそ、前任CEOに課 せられた最重要の責務があると言ってもいい。また、後継者育成への責任は、その存在意義の証として取締役会も負っている。

旧来の不透明な後継者人事と絶縁し、公正で客観的な新しいプロセスを作り上げ、運用する。そのことは、今日の日本企業経営陣 に与えられた時代的要請だと認識すべきだろう。

注1 日本経済新聞2018年3月6日記事
注2 Strategy& (現:PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング(Strategy&)) 2014年世界の上場企業に対するCEO承継 査より
注3 日本経済新聞2016年4月25日記事

 

著者

安田結子:CEO、取締役サービス部門の日本における責任 者。日本企業の社外取締役の招聘や取締役会実効性評 価・CEO後継者育成計画等の案件に従事。

Yuko Yasuda: As leader of the firm’s Board and CEO practice in Japan, Yuko possesses extensive search, succession management, and assessment experience and focuses on a range of senior assignments including CEO and other C-level positions. Yuko conducts board searches and advises Japanese multinationals on board effectiveness.

Discover more about our expertise in

Board Directors And Chief Executive Officers


We help companies address the challenges CEOs face, manage the complexities associated with board governance and offer talent solutions.
Learn More

Additional Expertise


Sign up for our newsletter


Get the newsletter that prepares you for what's next with valuable insights across industries and geographies.












Discover more about our expertise in

Board Directors And Chief Executive Officers


We help companies address the challenges CEOs face, manage the complexities associated with board governance and offer talent solutions.
Learn More

Featured Insight


Additional Expertise


Sign up for our newsletter

Get the newsletter that prepares you for what's next with valuable insights across industries and geographies.
CEO後継者育成計画とは何か - 基本概念と実効性のある策定・運用に向けて